大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻 サステナブルシステムデザイン学領域

研究内容

持続可能社会に相応しい人工物システムのデザインとマネジメント小林 英樹

はじめに

本研究室の目標は、持続可能な人工物システムのデザインおよびマネジメントの方法論を生み出すための学術基盤を体系化することである。これまでにライフサイクル工学、環境学、設計工学の知識を活用したシステムズアプローチの研究成果を数多く蓄積しており、これらを基に研究に取り組んでいる。

2015年9月には国連総会で持続可能な開発目標が採択され、17目標が設定された。目標の一つである持続可能な生産と消費(SCP: Sustainable Consumption ad Production)は特に本研究室との関わりが深い。国連環境計画は、SCPを「消費と生産システムが環境に及ぼすネガティブなインパクトを最小化しつつ、すべての人にとっての生活の質の向上を目指す包括的なアプローチ」と定義している。

本研究室ではSCPの実現を支える研究を、資源生産性を大幅に向上させるストックベースト・アプローチ[Kobayashi 2016]と、生活の質(QoL:Quality of Life)を向上させる地域指向アプローチ[Kobayashi 2015]の両面で進めている(図1)。資源生産性とは資源フローあたりで得られるサービスの量を意味する。先進国住民のQoLは既に大量のストックと資源フローに支えられて高い平均水準にある。今後はQoLを維持しながら資源フローを大幅に削減・安定化させることが必要である。一方、途上国住民の一人あたり資源フローは相対的に少ないがQoLも低い。このため、資源フローの増大を抑えつつQoLを大幅に向上させる必要があ
る。なお、個人レベルでは同一国内でもQoLに格差があるため、最終的には両アプローチによる研究は地域を問わず適用されることを想定している。

以下では、ストックベースト・アプローチと地域指向アプローチに関連したる幾つかの研究テーマを紹介する。

図1:二つの研究アプローチ

System of systemsを対象としたライフサイクルシミュレーション
[Kobayashi 2016、Kawakami et al. 2017]


資源フローを評価する手法として、資源採掘から廃棄に至る人工物ライフサイクルを通じた環境負荷を静的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)、および人工物ライフサイクルの環境負荷と経済性を動的に評価するライフサイクルシミュレーション (LCS)がある。LCSでは、人工物の寿命、および寿命時のリユースやリサイクルなどの資源循環経路(ライフサイクルオプション)、構成素材、リユース先人工物を含む生産計画などを入力データとする離散事象シミュレーションにより、廃棄台数、リユース率、二酸化炭素排出量、総コスト、企業利益などの時系列データを出力する。

現実世界では、ある人工物システムと異種人工物システムとの間に予期せぬ相互作用が生じ、いわゆるシステムのシステム
(SoS: System of Systems)を形成することがある。本研究ではこうした事態に対処するために従来のLCSを拡張したLCS4SoS方法論を開発している。異種人工物システム間の相互作用として生産需要代替、使用強度の変化、部品リユースなどが考えられる。本研究室では、LCS4SoSのシステム実装を行い、システム設計段階で個別システム間の相互作用を検討したり、システム運用段階で予期しなかった相互作用への対応を検討したりするための研究を進めている。

データ同化型ライフサイクルシミュレーション[Fukushige et al. 2017]

人工物システムの運用段階では、LCSの入力データである寿命、故障率、生産台数と、出力データである廃棄台数、リユース率などが設計段階で設定、予測した値から徐々に乖離していくのが通例である。現実世界で起きている状況を何らかの方法で反映しながらLCS予測精度の低下を防ぐことが、システム運用段階におけるより良い意思決定につながる。 

長期間の離散事象シミュレーションでは、生産超過や初期不良など突発的な事象の発生が時間遅れを伴って資源フローに大きな影響を与えることがある。このため、時間を遡ってこれらの突発事象情報をLCSモデルに反映できれば有用である。また、故障率や性能劣化率なども使用環境によって標準値と異なる値になることがあり、これらを現実に即した値に修正することも有用である。本研究では、上記の実現のため気象予測分野で適用されているデータ同化の考え方をLCSに適した形で導入し、現実世界の計測可能データをLCSモデルに反映するメカニズムを備えることで、予測精度の低下を防ぐことを目指している。離散事象システムにデータ同化技術を導入する際の特徴の一つは、マテリアルバランスの調整が必要な点にある。プロトタイプの開発とケーススタディによる原理検証を行い、有効性を示唆する結果を得ている。

地域情報を反映した設計情報可視化システム[Sugita et al. 2017]

国内市場は人口減少に伴って縮小傾向にある。このため国内メーカは新興国、途上国市場への進出、展開を図っているが、一部を除いて必ずしも成功していない。その原因の一つとして、生活者の背後にある暗黙の前提条件や制約条件に対する理解が十分でないことが考えられる。現地の経済水準に見合った価格設定は前提条件の一つであるが、実際はそれだけでは不十分である。

本研究では、現地調査、人工物の動作解析とテアダウンなどを通じて得た地域特有情報を人工物の機能・構造マップに対応付ける拡張機能・構造マップを提案し、設計支援への応用を研究している。これまでにベトナムやタイを実際に訪れて収集した情報を情報可視化システム上に表示したり、LCAや社会LCA評価をしたりして比較文化研究を進めている。図2は日本企業製とベトナム企業製の炊飯器のテアダウン例であるが、機能、構造、あるいは部品の加工や処理方法に地域性が反映されてい
る。

図2:炊飯器のテアダウン例

状況依存デザイン支援システム[福重ら 2016]

QoL向上に貢献する人工物デザインを行う際に、住居を含む他の人工物との配置関係やユーザの動線など、空間情報が有用な場面がある。例えば、先進国企業が途上国に受け入れられる人工物デザインを実施する際、こうした空間情報は設計者が現地に赴かないと把握しにくいが、製品開発コストやリードタイムの点で困難がある。

本研究は人工物の設置環境や使用状況を考慮したデザインの支援を目的としているが、その有力な応用先が地域指向サステナブルデザインである。図3は、ベトナムの一般家庭で撮影した多数の全天球画像から居室全体の仮想化現実環境を構築した例である。本システムを用いて人工物ユーザの動線を導出し作業性を評価することでデザイン案の評価支援を行うなどの応用研究を進めている。この他に、編集可能現実(ER: Editable Reality)を応用した状況依存デザイン支援の要素技術も研究している。

図3:仮想化現実環境の画像イメージ

おわりに

本稿で紹介した研究テーマの他にも、生活圏全体におけるQoLと人工物の関係モデル化、持続可能な製品サービスシステム
(SPSS)、人工物の易分解性構造など多岐にわたるテーマに取り組んでいる。現実世界を複雑且つ流動的なシステムとして捉える必要が増しており、こうした問題を乗り越えるには、広く深い知識に加えて、強い行動力、精神力も重要となる。
未来の持続可能システムを創り出すという壮大な課題に対して意欲ある学生諸君の進学を期待する。

<参考文献>

  • [Fukushige et al. 2017] Fukushig, S., Nishioka, M., Kobayashi, H., CIRP Annals, 2017, accepted.
  • [Kobayashi 2016] Kobayashi, H., Proc. EGG+2017, Berlin, 2016.
  • [Kobayashi 2015] Kobayashi, H., Proc. EcoDesign2015, Tokyo, 2015.
  • [Kawakami et al. 2017], Kawakami, K., Fukushige, S., Kobayashi, H., Procedia CIRP, to appear.
  • [Sugita et al. 2017] Sugita, Y., Fukushige, S., Kobayashi, H., Procedia CIRP, to appear.
  • [福重ら 2016] 福重,宮田,小林,Design シンポジウム2016,2016.