大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻 サステナブルシステムデザイン学領域

研究内容

持続可能社会に相応しい人工物システムのデザインとマネジメント小林 英樹

特徴

サステナブルシステムデザイン学は、まだ確立したものではありません。領域名称は、持続可能な人工物システムのデザインおよびマネジメントの方法論を生み出すための学術基盤体系を目指して付けたものです。国連によって持続可能な開発目標(SDGs)が設定されていますが、本研究室はSDGsの目標の一つである「持続可能な消費と生産(SCP)」の実現に深く関わるテーマに取り組んでいます。このようなテーマはある学術分野の知識だけで解決することが困難です。学際的なアプローチでこれらに取り組んでいる点に本研究室の特徴があります。具体的には、ライフサイクル工学、資源・エネルギーを含む環境学、設計工学を基盤分野とし、テーマに応じてシステム理論、環境経済学、人文社会系の知識を加えて研究しています(図1)。

図1:サステナブルシステムデザイン学を構成する学術基盤

研究内容

研究テーマをストック活用型人工物デザイン・マネジメントと地域指向サステナブルデザインに大別して紹介します。

ストック活用型人工物デザイン・マネジメント
既に工業化されて人工物が充ち溢れた地域を対象として、環境的に持続可能な準定常システムの実現可能性を追求しています。離散事象モデリングに基づく製品ライフサイクルシミュレーション(LCS)技術を基盤として以下のテーマに取り組んでいます。

・データ同化型ライフサイクルシミュレーション
データ同化技術は観測データを適宜シミュレーションモデルに反映させながら計算精度を維持・向上させる技術で、近年は気象分野などで応用されています。ライフサイクル設計時に開発したLCSモデルを、製品リリース後の意思決定にも役立てるため、データ同化技術の考え方を用いて継続的にLCSモデルを更新するメカニズムを研究しています。具体的には製品使用、リユース、廃棄処理段階で計測した性能劣化データを、LCSモデルに随時反映する方法を研究しています。本研究は製品や部品の長期使用に貢献すると考えています。

・SoSを対象としたライフサイクルシミュレーション
人工物システムは大規模化、複雑化しながら発展してきましたが、近年はさらに通信システム、エネルギーシステム、交通システムなどの運用開始後に、互いに予期せぬ相互作用が生じて、いわゆるSoS(System of Systems)と呼ばれるシステムを形成することがあります。電気自動車の普及に伴うビジネスエコシステム形成などが典型例です。本研究では製品ライフサイクルシステムから成るSoSを評価するためのLCS方法論、およびそれを実装したシミュレータを開発しています。

地域指向サステナブルデザイン
地球規模の持続可能性の実現には、将来人口の大半を占める現在の新興国・途上国において世帯レベルで生活の質(QoL)を向上させる必要があると考えます。まだ工業化されていない地域を対象として、入手可能な価格で基本ニーズを充足する製品開発方法論の研究を行っています。実際にベトナムやタイなどの現地調査で生活を実感することも重視しています。

・生活圏アプローチに基づく製品開発方法論
基本ニーズの充足手段は気候、社会インフラ、宗教、生活習慣など対象とする地域特性に強く依存します。これらは自由な個人消費行動にも影響を及ぼします。日本製品を単に簡素化・低価格化した製品が途上国で受け入れられない理由も、そうした国の基本ニーズ充足の方向性が日本の場合と異なるからであると筆者は考えます。生活圏アプローチとは、この考え方に基づいて基本ニーズ充足手段と人々の日常生活空間(いわゆる生活圏)に存在する多数の製品との関係を確認していく研究アプローチを指します。

・設計情報可視化システム
新興国・途上国で設計・生産された製品をリバースエンジニアリングすることで得ることのできる構造や機能に関する情報と、文献や現地調査で入手した地域情報を、拡張機能構造マップと呼ぶ形式で工夫して視覚化する方法と、それを用いて設計者に気付きを与える情報システムを開発しています。既存の設計工学との親和性が高いテーマです。

・異文化間ライフサイクル評価
新興国・途上国の製品にとっても製品ライフサイクルを通じた環境負荷の把握と低減は必要です。このためLCAは必須なのですが、本研究では特に地域特性の違いが際立つような製品ライフサイクル比較評価方法を検討しています。ある種のシナリオ評価とも言えますが、例えば現地特有の製品の使い方や、電力、生産、廃棄物処理インフラおよび技術レベルの違いを考慮した比較評価の事例研究を行っています。

・状況依存デザイン支援システム
製品の使用段階では様々な製品が空間的に配置され、それらに囲まれて衣食住の生活習慣や各種の地域特性が暗黙的に反映された日常生活が営まれています。こうした生活習慣や地域特性は設計者が現地で体験しないと理解しにくく、このためメーカの中には技術者に数年の現地滞在を義務付ける企業もあるほどです。本研究では日常生活の空間的な状況(コンテクスト)を計算機内の仮想化現実環境として構築し、先進国と途上国の間の協調設計におけるコミュニケーションギャップを減らすための支援システムを開発しています(図2)。

図2:ベトナム住居の仮想化現実環境