大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻 サステナブルシステムデザイン学領域

研究内容

工学研究科
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持続可能社会に相応しい人工物システムのデザインとマネジメント小林英樹

1.サステナブルシステムデザイン学

 持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)が国連で採択され、社会のあらゆる分野に影響を与え始めている。ものづくりとの関連としてはSDGsの12番目の目標である「持続可能な消費と生産(SCP: Sustainable Consumption and Production)パターンの確保」への対応が各産業で議論されている。本研究室の研究テーマはすべて持続可能性を意識したものであり、当然ながらSDGsやSCPに関連するものが多い。
 持続可能性に関連する長年の研究・実務経験を踏まえて、筆者は大阪大学着任と同時に学際的な学術領域であるサステナブルシステムデザイン学を提唱した。個人的には“サステナブル”“システム”“デザイン”のそれぞれの言葉に深い思いを込めた。設計工学、ライフサイクル工学、環境学を学術基盤としつつ、テーマに応じて様々な知識を用いて研究している(図1)。

図1:サステナブルシステムデザイン学を構成する学術基盤

 サステナブルシステムデザイン学の主な関心は、少ない資源消費ですべての人の基本ニーズを充たす状態(目標)を達成し、且つ維持するプロセスにある。研究対象の状況に応じて、研究テーマの方向性を大きく二つに分けている(図2)。一つは過剰な資源消費(鉱物資源だけでなくエネルギー資源や水資源の消費も含む)によって人間の基本ニーズがほぼ満たされている状況におけるテーマである。この状況は主に欧米諸国や日本にあてはまり、資源効率をさらに大きく改善するテーマが必要である。もう一つは、資源消費はそれほど多くないものの、基本ニーズ自体が満たされていない状況である。こうした状況は経済発展が遅れている途上国全般であてはまるが、個人レベルで見れば、格差が広がっている先進国でもこれにあてはまる人々はいるだろう。この場合は、人間の基本ニーズ充足という社会的な持続可能性に重きを置きつつ、環境的な持続可能性も配慮するようなテーマが求められる。

図2:研究テーマの方向性を示す概念図

 人工物システムの生産から廃棄に至るライフサイクル全体で物事を判断するライフサイクル思考は研究を進める上で大変重要であり、その意味で「人工物ライフサイクルのシステム化」に関する方法論は学術の基礎である。一方、昨今の持続可能性問題が提示する複雑、且つ解決困難な様相に対してはそれだけでは不十分である。そこで筆者らは、「産業のシステム化」と「社会実践のシステム化」という新たな研究領域を開拓している。



2.研究紹介

2.1 結合型ライフサイクルシステムズ

 これまでも人工物システムは個別に複雑化、大規模化しながら発展してきた。一方、現実世界では、それまでは関係がなかったシステム間に物質または情報を介した相互作用が生じて、いわゆる超システム(SoS: System of Systems)と見なせる状態が形成されることがある。例えば、電気自動車に搭載されているバッテリーの技術革新によって、交通システムのみならず通信システム、エネルギーシステムをも巻き込んだビジネスのエコシステムが形成されつつある。こうした複雑システムは固定化されず、常に部分的に変化しつつある。環境側面からは「産業のシステム化」による資源消費の増減が気懸かりであるが、それはライフサイクル思考で判断されなければならない。
 筆者らは人工物ライフサイクルシステムが結合して生じる超システムを結合型ライフサイクルシステムズと名付け、その動態に関する研究を進めている(図3)。離散事象モデリングに基づくライフサイクルシミュレーションを基盤技術として、こうした超システム全体の物質フローを評価するシミュレーション方法論を開発している[1]。超システムを含む産業システム全体に投入される天然資源量を許容値以下で安定させた準定常システムを構想しているが、実現に向けたハードルは高い。その理由は、超システムとはそもそも最適化困難な動的対象だからである。このため、超システムのマネジメント方法論を視野に入れて研究している。

図3:結合型ライフサイクルシステムズの概念[1]

 近年は様々なシェリングサービスが普及しつつあり、シェアリングエコノミーによる利便性と資源効率の改善が期待されている。一方で、シェアリングと資源消費の増減との定量的な関係の詳細は十分に把握できていない。本研究室ではライドシェアやカーシェアという自動車シェリングサービスのライフサイクルモデルを開発し、ライフサイクルシミュレーションによって資源消費の増減に影響の大きい要因の特定などを行っている(図4)。こうしたシェアリングサービスも結合型ライフサイクルシステムズに組み込まれていくと考えている。

図4:自動車シェアリングのライフサイクルモデリング[2]

2.2 地域指向サステナブルデザイン

 地球規模の持続可能性を本当に実現するには、世界人口の過半を占める新興国、途上国の社会も持続可能でなくてはならない。筆者らは地域特性を製品仕様や環境影響の低減方策に的確に反映する地域指向サステナブルデザインを研究している。そして地域指向サステナブルデザインを実現するアプローチとして、日常生活の基本ニーズを充足するように製品群の総体をデザインする生活圏アプローチを提案している(図5)。その特徴は、チリの経済学者Max-Neefが提唱した基本ニーズの枠組みを取り入れた点にある。基本ニーズは普遍的で、それらの充足手段(サティスファイヤと呼ぶ)が気候などの自然システム、歴史、文化、社会インフラなど地域性や時代に依存するという考え方である。これにより、日本製の商品を単に簡素化、低価格化した商品が途上国で受け入れられない理由も、対象地域のサティスファイヤの違いによって説明できるようになる。この他にもサティスファイヤによって様々な社会実践を説明することもできそうである。

図5:生活圏アプローチのフレームワーク[3]

 デザインへの応用としては、拡張機能構造マップと呼ぶ形式で人工物の機能と構造の対応関係にサティスファイヤを含む地域特性情報をひも付けしておいて、対象地域に特有の機能や構造を提示する計算機支援システムを開発している(図6)。また、対象地域の生活空間を再現した仮想空間内に人工物の設計改良案を登場させて、ユーザが生活圏のコンテクストで評価を行う計算機支援システムも開発している(図7)。企業担当者のレビューによるデザイン支援の有効性検証も行っている。このように「社会実践のシステム化」という切り口で地域指向サステナブルデザイン方法論を研究している。

図6:拡張機能構造マップを用いたデザイン支援システム[4]

図7:仮想現実空間を用いたデザイン評価システム[5]

参考文献

[1]  Kobayashi H., et al., AEI, 36, (2018), 101-111.
[2]  村田ほか, 2018年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集, 791-792.
[3]  Kobayashi H., Fukushige S, JoR, 8-3, (2018), 103-113.
[4]  Sugita S., et al., Procedia CIRP, 61 (2017), 617-622.
[5]  宮田ほか, 2017年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集, O-17.